2016年公開の映画「海よりもまだ深く」。
脚本、微妙な心の機微を表現した俳優陣の演技、音楽どれをとってもいい映画でした。
どこにでもある何気ない日常を淡々と描いただけなのに、ここまでの作品に仕上げたのですからすばらしいです。
「海よりもまだ深く」には淑子を演じた樹木希林さんの名言とも言えるセリフがいくつも登場します。
ここでは「海よりもまだ深く」の樹木希林さんの名言から厳選した5つをご紹介します。
また他のキャストの名セリフも合わせてご紹介します。
目次
「海よりもまだ深く」樹木希林の名言5選
「なんで男は今を愛せないのかねぇ」
台風が来た日の夜、良多(阿部寛)とその母淑子(樹木希林)が団地の部屋で会話するシーン。
「なんで男は今を愛せないのかねぇ」
これはいつまでも別れた女房、子どもに未練を残す息子の良多に言った言葉です。
さらに「いつまでもなくしたものを追いかけたり、叶わない夢見たり。そんなことしてたら毎日楽しくないでしょ」とも。
劇中の良多を見ていると、たしかに楽しそうには見えません。
執筆活動はうまくいかず、稼いだ金はギャンブルにつかい、養育費もまともに払えず、元妻には愛想をつかれ距離を置かれています。
母親ですから、別々に暮らしていても息子のことはよく見ていたんですね。
そんな息子に言ったさりげない一言でした。
けっして説教くさくならず、重い雰囲気にもならず、サラッと言っているところが、より言葉に重みを与えていたように感じます。
「幸せってのはね、何かをこう諦めないと手にできないもんなのよ」
このセリフがズーンと心に響いた人は多いはず。とくにある程度の年齢を重ねた人だったら絶対に響いたでしょう。
劇中の良多は何かを諦められない人です。
その何かとは元妻であり、別れて暮らす息子です。
また彼にとって小説を書くことも忘れられないことだと思います。15年前に1度だけ文学賞を受賞した栄光が忘れられず、今でも小説で見果てぬ夢を追っています。
そんな息子に言った母のセリフ、心に残りました。
仏教の無常観にも通じる言葉だと思いました。
世の中のあらゆるものは常に変化している。物も人の心も。
でも何事も変化しないと考え、ある一つのことだけに執着しているとそこに苦しみが生まれる。
苦しまないためにはすべてを受け入れ、諦めることも大切。
こんな意味が含まれていたのかな、と感じました。
努力もせず最初から諦めるのはどうかと思いますが、幸せになるにはどうにもならないことは諦めることは大切ですよね。
「ひと晩寝かせたほうが味が染みるのよ。人と同じで」
映画の冒頭で筑前煮を作るシーンでの淑子のセリフ。
娘の千奈津(小林聡美)が「おー、うまいこというねぇ」と返します。
当たり前なんです、言っていること自体は。
でも年齢を重ねていろいろな経験をしてきたこの年代の人が言うからこそずしり響きます。
小林聡美がこのセリフを言っても、まだ笑いにしかならないと思います。
もしかしたらこの言葉の本当の理解するには、自分自身がまだ十分な経験を積んでいないのかもしれない、とも考えてしまうほど単純だけど奥深い言葉です。
花も実もつかないんだけどね。なんかの役には立ってんのよ
良多が高校時代に種を植えたみかんの木に
淑子「花も身もつかないんだけどね。あんただと思って毎日水やってんのよ」
良多「いやなこと言うな~」
淑子「青虫が葉っぱ食べて育つのよ。なんかの役には立ってんのよ」
良多は典型的なダメ息子です。
1度文学賞を取ったもののその後は鳴かず飛ばず。
探偵の仕事をしても稼いだ金はギャンブルにつかい、養育費も滞りがちです。
そんな息子でも淑子は花や実をつけてほしいとほしいと思っているはずです。
そう思いつつもこの年になってこれじゃねぇ、という心境なのかもしれません。
一見皮肉に聞こえるかもしれません。
でも元気でいてくれれば十分、という母の愛情がたっぷりとつまった名言だと思いました。
良多にはいつか花や実をつけてほしいものです。
「いなくなってからいくら思ったってダメよ」
さらに「目の前にいる時にきちんとあれしないとね」と続けます。
淑子が良多に自分が思っていることがあれば、その人がいる時にきちんと伝えなさいと言っているのです。
親しければ言葉にしなくても、互いの気持ちや考えていることはわかる、という意味で以心伝心という言葉があります。
何も言わなくてもわかり合える関係はすばらしい関係と言えます。
付き合いの長い友達同士や長くつれそった夫婦なら以心伝心が成り立つかもしれません。
ただ何も言わなくてもわかるだろう、と思っていても実は相手に伝わっていなかったということが意外と多いものです。
特に親子、兄弟間では多いかもしれませんね。
高齢の淑子は息子の良多に、自分に対して思っていることがあったら私が生きているうちにきちんといいなさい、という意味を込めてこの言葉を言ったのかもしれません。
このセリフも当たり前のことなんですよね。
でも樹木希林だからこそ重みを感じさせるセリフになっているところがすごいです。
樹木希林のセリフを5つご紹介しましたが、劇中ですべてさらっと言っているんですよね。
押しつけがましくなく、説教くさくなく、ひょうひょうと。
それなのに説得力がスゴイ!
とても劇中の演技とは思えず、彼女自身が生きてきた人生や経験から自然と出てきた言葉のように感じました。
「海よりもまだ深く」登場人物たちの名言・名セリフ
「そんなにかんたんになりたい大人になれると思ったら大間違いだぞ」
探偵の立場を利用し金を巻き上げた高校生から
「あんたみたいな大人にだけはなりなくないです」
と言われたことに対して良多が返した言葉がこれ。
佐野元春の「ガラスのジェネレーション」の「つまらない大人にはなりたくない」という歌詞を思い出しました。
良多が言ってることはもっともなんですよね。
簡単に理想の大人になれると思ったら大間違い。何の努力もせずなりたい大人になることはできません。
ただ良多がこのセリフを言っているところがポイントです。
なりたい大人になれなかった、こんなはずじゃなかったと思いつつ日々を生きているからこその名セリフ(?)なのです。
ちなみに主役の阿部寛さんが最も印象に残っているのがこのシーンだそうです。
ところで良多が描いていた「なりたい大人」ってどんな男だったのでしょう?
愛だけじゃ生きていけないのよ、大人は
台風のため淑子のマンションに泊まることになった良多と響子(真木よう子)が、夜会話を交わすシーンでの響子のセリフ。
今付き合っている男との交際にあれこれ言ってくる良多にキレかかって言うセリフです。
子育てをしながら仕事もこなすシングルマザーの響子は、自分や子どもの未来をしっかり考えています。
交際中の彼は良多と違い甲斐性がある男です。
ダメ男の良多と夫婦であったとは思えない、とてもしっかりした女性であることがわかります。
リアリストの響子の名言ですが、私のまわりの女性にこのセリフについて聞くと「世の中の主婦はみんなそう考えている」とのことでした。
全部ひっくるめてあたしの人生やから
良多が勤める探偵事務所の依頼主の女性・安藤未来の一言。
ベッキーが例の不倫騒動のあとの会見で、「(いいことも悪いことも)全部ね。ひっくるめて人生です」と言っていたことに共通します。
この発言は自力の考えに基づいています。
だからこそここで取り上げたのですが、世の中には他力の考えが強すぎる方もいます。
淑子が亡き夫を「時代にせいにしちゃったのよ。自分のダメなところをね」と表現するセリフがありますが、その夫は他力の考えの持ち主と言えます。
他力自体は悪いことだとは思いません。一人では生きていけませんから。
しかしそれが強すぎると責任を他人に転嫁したくなったり、だれに依存する気持ちが強くなったりします。
自力で頑張っていれば、それをだれかが見てくれていています。応援したいと思うも現れるでしょう。
劇中の女性はそうした自力の考えを持っていたんですね。
劇中には他にもいい言葉がありましたが、自戒の意味も込めて「全部ひっくるめてあたしの人生やから」をご紹介しました。
まとめ
「海よりもまだ深く」樹木希林の名言
- なんで男は今を愛せないのかねぇ
- 幸せってのはね、何かをこう諦めないと手にできないもんなのよ
- ひと晩寝かせたほうが味が染みるのよ。人と同じで
- 花も身もつかないんだけどね。なんかの役には立ってんのよ
- いなくなってからいくら思ったってダメよ
他のキャストによる名セリフ・名言
- そんなにかんたんになりたい大人になれると思ったら大間違いだぞ
- 愛だけじゃ生きていけないのよ、大人は
- 全部ひっくるめてあたしの人生やから
最後まで読んでいただきありがとうございました!