2020年4月開始のアニメ「啄木鳥探偵處」(きつつきたんていどころ)には学生時代の江戸川乱歩(平井太郎)が登場します。
「明智小五郎」ものや「怪人二十面相」もので知られる作家ですね。
ところで江戸川乱歩という名前は聞いたことがあっても、作品を読んだことがない、あるいはどんな人物か知らない方は多いと思います。
そこでここでは江戸川乱歩の生い立ちや若い頃のエピソード、江戸川作品の人気の理由についてまとめました!
目次
江戸川乱歩の生い立ち
- 本名:平井太郎(ひらいたろう)
- 生年月日:1894年10月24日
- 出身地:三重県名賀郡名張町
- 最終学歴:早稲田大学政治経済学部卒業
- 死没:1965年7月28日(享年70歳)
武家の家柄の家に生まれる
大正から昭和にかけて推理小説家として活躍し、後の小説家にも多大な影響を与えた江戸川乱歩。
乱歩(平井太郎)が生まれた平井家は武士の家柄でした。
伊豆伊東(現在の静岡県)に起源を持つ平井家は、のちに藤堂高虎を初代藩主とする津藩の藩士となり、明治維新を迎えるまで代々藤堂家に仕えていました。
乱歩は幼少期に母親から菊池幽芳の作品を読み聞かせされ探偵小説に触れると、自ら推理小説の訳書を読んだり、中学生になると黒岩涙香や押川春浪の作品を読んだりするようになります。
後で触れますが、中学生の頃の乱歩は友だちがおらずいじめも受けていたため、学校の図書室で一人本を読んだり思索にふけることが多かったようです。
思春期に当たるこの時期に思索や読書に耽っていたことが、後に作家として大成することにつながっているのかもしれません。
なお乱歩の父方の祖母わさも文学好きで、幼少期の乱歩に大きな影響を与えた人物のようです。
大学卒業後は職を転々と
乱歩は旧制愛知県立第五中を経て早稲田大学政経学部に入学。
将来小説家になる乱歩が文学部ではなく、政経学部を選んだのは事業欲が強かったためとも言われています。
乱歩の父親は後に倒産してしまったものの1908年に独立し、外国保険の代理販売、石炭販売、輸入危機の取次などを行う平井商店を興しています。
父親と同じく事業欲が強かった乱歩は、就職しても会社員で終わる気はなく、いずれ事業を興したいと思っていた節があります。
しかし大学を卒業した乱歩は
- 貿易会社
- 古本屋
- しなそば屋(ラーメン屋)
- タイプライターの行商
- 造船所
などいくつもの職業を転々とします。
どの仕事も半年から1年で辞めており、実態としては現在のフリーターに近かったようです。
もともと人と付き合うのが苦手だったため、一つの職場で人と深く関わるのが嫌だったのかもしれませんね。
「二銭銅貨」で作家デビュー
1919年に乱歩は小学校教師の村山隆子と結婚し、のちに子どもも生まれます。
乱歩は生活費のために探偵小説を書き始め、1923年に「二銭銅貨」が「新青年」に掲載され作家デビュー。
その後「一寸法師」「蜘蛛男」など明智小五郎ものの長編小説や、「怪人二十面相」など児童向け作品など多数の探偵小説を世に送り出し、日本文学界に大きな足跡を残します。
ちなみに小説「啄木鳥探偵處」では、学生だった乱歩(らしき人物)が浅草の娼婦おたきが死んだ事件の推理を啄木と金田一京介に披露し、金田一がおたき殺しの犯人でないことを証明してみせます。
>>>関連記事:「啄木鳥探偵處」おたき殺しの犯人は誰?推理した学生は誰かについても
乱歩(らしき人物)はその後啄木や金田一の前に姿を現すことはありませんが、その人物に触発されたのか、啄木はそのあと自宅で探偵業を営むようになります。
乱歩の推理は実に見事で、啄木も金田一も圧倒されていたのが印象的でした(笑。
江戸川乱歩の若い頃のエピソード
アニメ「啄木鳥探偵處」に登場する江戸川乱歩は、まだ作家としてデビューする前の平井太郎です。
平井は早稲田大学の学生で、啄木や金田一と同じ下宿に住んでいるという設定です。
ここでは江戸川乱歩の若い頃にエピソードをいくつかご紹介します。
ネガティブで学生時代は友達がいなかった
若い頃の江戸川乱歩は友達がいなかったと言われています。
乱歩は小さい頃から暗いネガティブな性格で、いつも一人で何かを空想している事が多かったようです。
そんな性格だったためか、中学のころの平井少年はいじめを受け不登校気味になっており、学校には半分くらいしか行っていませんでした。
学校に行っても図書館に行き、一人時間を過ごすことが多かったようです。
ネガティブな性格だったらいじめにあったのか、いじめにあったからネガティブになったのかはわかりませんが、友達が少なかったことだけは間違いないようです。
その性格は大人になっても相変わらずで、貿易会社、しなそば店(ラーメン屋)、古本屋など仕事を転々としたのも、暗く人付き合いが苦手な性格が関係していたようです。
また生涯46回も引っ越しをしたのも人と関わりたくないネガティブな性格が関係したのかもしれませんね。
初恋は女の子ではなく男の子?
江戸川乱歩は1929年から1939年にかけて大衆雑誌「朝日」に「孤島の鬼」という長編探偵小説を掲載します。
30歳にもならない主人公の蓑浦は見事な白髪をした青年ですが、彼の黒髪が真っ白になったのは彼が体験したある恐ろしい出来事が原因でした。
蓑浦は初代という女性と付き合っていましたが、恋人を何者かに殺されます。
蓑浦は学生時代から自分に好意を寄せていた同性愛者の諸戸が嫉妬して初代を殺したでのはないか、と疑い事件の真相を追求し始めます。
こんなストーリーの「孤島の鬼」は元祖BL(ボーイズラブ)的な小説ですが、作者の江戸川乱歩の初恋の相手も実は男子なのです。
本人曰く
まあ初恋といっていいのは、十五歳(かぞえ年)の時でした。
中学二年です。お惚気(のろけ)じゃありません。
相手は女じゃないのだから。
それが実にプラトニックで、熱烈で、僕の一生の恋が、その同性に対してみんな使いつくされてしまったかの観があるのです。
ラブレターの交換や、手を握り合えば熱がして、身体が震え出したものです。
ラブレターを交換したり手を握り合っていたのが事実なら、相手の男性も乱歩にそれなりの好意があったということになりますね。
15歳の頃にしたこんな経験から「孤島の鬼」は生まれたのでしょうか?
一生分の恋が使いつくされたなんてよほど熱烈な恋愛だったのかもしれませんね。
満州渡航を企てるも失敗・停学処分になった中学時代
愛知県立第五中学校時代の乱歩は出版事業に高い関心を持っており、2年生のときに活字を買い入れ「中央少年」という会費制の雑誌を出版しています。
これより前の高等小学校時代にも同じような雑誌を出版しています。
乱歩の事業欲と文学に対する興味を感じさせるエピソードと言えます。
また中学4年(1910年)には満州への渡航を企て、友だちと寄宿舎を脱走。
停学処分を受けた経験もあるとか!?
1910年というと日韓併合、さらに翌年には辛亥革命で中華民国が生まれるなどの激動の時代。
満州渡航の動機はわかりませんが、日本に莫大な利益をもたらすであろう満州を一度見てみてかったのかもしれませんね。
乱歩50歳にして人間嫌いを克服?
若い頃のエピソードではありませんが、江戸川乱歩が若い頃の人間嫌いを克服したことをご紹介します。
先程書いたように江戸川乱歩は学生時代から超ネガティブ、暗い性格で、人付き合いはほとんどなく、人間嫌いとも言える性格でした。
彼にとって「学校は地獄」で、いつも一人で妄想する癖があり、その性格を大人になるまでずっと引きずっていました。
しかし太平洋戦争(1941年~1945年)が終わると、それまでの人間嫌いが嘘のように近所の人と付き合いを始めるようになります。
人間嫌い克服のきっかけは町内会の役員に任命されたこと。
「昼間ひまそうだから」という理由で防災訓練長になった乱歩は、最初は当惑していたものの次第に防災訓練が楽しくなり、積極的に活動をするようになったとか。
その様子が町内会長の目に止まり気に入られ、町内会の役員を引き受けるようになり、ついには副会長までになったそうです(笑。
乱歩はその時すでに50歳を過ぎていましたから、ずいぶん遅い人間嫌いの克服でした。
人付き合いができるようになった一つの理由に「戦争中お酒が飲めるようになった」ことがあったようですが、50歳を目前にしてお酒を飲めるようになったというのも興味深いですね。
ちなみに町内会副会長になってからは、パンパンに膨らんだ財布を持って若い衆を引き連れて飲み歩いていたようです。
江戸川乱歩の作品の人気の理由
乱歩の作品は100年もの時間を超えて今でも高い人気があります。
ここでは江戸川作品の特徴や人気の理由を解説します。
江戸川作品の特徴
日本推理作家協会の初代理事長を務めたことからわかるように、乱歩は日本に推理小説というジャンルを広めた作家です。
現在でも乱歩の作品は多くの人に読まれていますし、数多くの作品が翻訳され海外でも読まれています。
そんな江戸川乱歩の作品の特徴・作風は
- 「怪人二十面相」関連の作品
- それ以外の作品
2つに分けると理解しやすいです。
まず「怪人二十面相」シリーズは、明智小五郎や二十面相が登場しない作品が一部ありますが、基本的に「明智小五郎vs怪人二十面相の知恵比べ」という展開が多いです。
このシリーズでは「大暗室」以外では怪人二十面相は殺人を犯さず、予告したうえで犯行を行う、という彼なりの美学、ポリシーを持っています。
ミステリーの王道をいくもので、小中学生が最初に読むにはいい作品だと言えます。
それ以外の作品は「パノラマ島奇譚」などに代表されるよくわからない奇怪なもの、「蜘蛛男」のようなグロい描写を特徴とするものが多いです。
「パノラマ島奇譚」に出てくるパノラマ島の幻惑的な光景の描写はグロテスクなのに美しく、それがより作品の恐ろしさを増しています。
江戸川乱歩の人気の秘密
- 読みやすさ
- 奇想天外なストーリー展開
このあたりが江戸川乱歩の作品の人気の秘密だろうと考えられます。
乱歩が作品を書き始めて間もなく100年。
当時とは使う言葉や表現は変わっていますが、それでも乱歩の作品は読みやすく感じます。
文章が軽快でテンポもいいため、スラスラと読み進められるのもいいですね。
また時には荒唐無稽な設定もありますが、奇想天外なストーリーも乱歩作品の魅力で、読んでいくうちに自然と引き込まれていくところも魅力と言えます。
また奇抜なストーリーやどんでん返しのオチを支える描写力もすばらしいです!
読んでみたいけど何から読んだらいい?
- 江戸川乱歩の作品を読んでみたいけど何を読んだらいい?
こんな方にまずオススメなのが乱歩が作家活動初期に書いた短編作品です。
のちに長編作品を多く発表している江戸川乱歩ですが、駆け出しのころは短編小説を最初から最後まできちんと仕上げて雑誌に発表していました。
そういった短編小説のほうが、後に発表される長編よりも面白いという声が意外と多いです。
乱歩が実績を積んでから書いた長編の中には見切り発車的に連載をスタートさせたものもあります。
それらの長編作品の中には展開がその場しのぎになってしまい、連載の途中で乱歩がサジを投げてしまったものも少なくありません。
そこで乱歩の魅力を知る上でまずは「屋根裏の散歩者」のような初期の短編を手に取ることをオススメします。
新潮文庫の「江戸川乱歩傑作選」には「屋根裏の散歩者」を含む9つの短編小説が収められているので、初めての方はここから始めるのがいいのではないでしょうか。
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まとめ
この記事ではアニメ「啄木鳥探偵處」に登場する江戸川乱歩についてまとめました。
江戸川乱歩自身については
- 乱歩は武士の家柄に生まれ、幼少期より文学に親しんでいた
- 中学生の頃は友だちがおらず、図書館で本を読んだり思索にふけることが多かった
- 大学卒業後は職を転々とし、結婚後に作家としてデビューする
- 若い頃はネガティブな性格だった
- 初恋の相手は女性ではなく男性だった
- 中学生の時に満州渡航計画を立てたが失敗し、停学処分を受けた
- 50歳を過ぎて人間嫌いを克服した
作品の魅力の秘密は
- 読みやすさ
- 奇想天外なストーリー展開
江戸川乱歩の作品を初めて読む方には
- 「屋根裏の散歩者」のような初期の短編がオススメ
最後までご覧いただきありがとうございました!